最近 といいますか、ここ2~3年うちに薬局で薬をお求めになった方は、お気づきではないでしょうか。
薬が全般的に不足しているのです。
いつもの薬、頼むよ!
すみません…そのお薬は現在入荷しないのです。
工場での製造が追いついていないらしくて。
代わりに、他メーカーさんの製品になりますが、成分の同じ薬でご用意しますね。
え~?馴染みのあるメーカー製のほうが安心できるのになぁ。
2~3日だったら待てるよ。なんとか手配してよ。
それが…ご用意できる日のお約束がまったくできない状況なんです。
メーカーは違いますが有効成分は同じですので、心配なく服用していただけると思うのですが。
同じ成分なんだね?処方箋通りの薬なんだね。
だっから、しょうがない。用意できるものでいいよ。
すみません、ご迷惑をおかけします。
こんな会話が、一日に何度となく繰り返されます。
いったいどうしてこうなってしまったんでしょう?
きっかけの1つは、ある事件
今より遡ること三年。
ある薬に、異物が混入するという事件が発覚しました。
その”混入した異物”というのが、あろうことか別の薬品成分。しかも大量に混入していたので
服薬した患者さんに重大な被害が及んでしまったのです。
原因究明の段階で明らかになったのが、製造管理の杜撰さでした。
事の顛末を新聞報道で知ったときわたしは「東海村jco臨界事故」を思い出しました。
”慣れ”って怖い。”ちょっとぐらい違反しても大丈夫”、”もうちょっと手抜きをしても大丈夫”、…が積み重なり、とんでもない事故が起こってしまった。
このような不祥事を未然に防ぐために行政の監視体制がある、はずなのですが。
会社と行政間に馴れ合いがあったのでは?そう思わざるを得ない。
邪推であればよいのですが。
おそらくこの事件がきっかけで、製薬工場への監視が厳しくなり
(これまで馴れ合いで形骸化していた監視が本来に戻っただけ、でしょう…)
別の大手製薬会社の組織的な違反も明るみに出て
その会社も業務停止のお咎めをうけました。
この件で健康被害がなかったのは不幸中の幸いでした。しかし会社あげての違反でしたから
悪質ではあります。
違反していたのは上述の2社だけではありませんでした。調べていくと、他にも多数の製薬会社が違反をしており、それぞれ業務停止などの行政処分を受けています。
製造メーカーが業務停止になると、そこで製造していた薬は市場で不足します。代わりに他の製薬会社が製造するにも、どの会社も余裕がない。
Aという薬が不足するとします。その不足したA薬を製造するために、他の薬(B薬としましょう)の製造がストップしてしまう。
するとB薬が不足するので、他の薬(C薬としましょう)の製造を休んでB薬を製造。するとC薬が不足する
…といった玉突き事故が延々と続き、今に至っている。そんな状況です。
国(厚生労働省)が悪いの?
ここまでのお話では、悪いのは製薬会社 主に後発品メーカーという印象を受けますが
後発品メーカーにも言い分があるようです。
薬の値段が安すぎるんだよ。これじゃ儲けどころか人件費も満足に賄えない。
企業としての利益を出すには、違反も致し方ないんだ。
薬の値段は国が決めます。医療費削減という旗印のもと、薬価はどんどん下がっています。その政策自体は否定できるものではありません。でも、この困った状況を招いた一因であることも否定できないでしょう。
新型コロナが追い打ちをかけた
機を同じくして、新型コロナウイルスが全世界を襲いました。
新型コロナ患者さんの急増により治療薬の需要が増し、
主に鎮痛解熱剤・咳止め、総合感冒薬、葛根湯などの漢方薬
が、全般的に不足しています。これらの薬を増産するために他の薬の製造を止める、するとその薬が不足する…という
”玉突き事故”が、ここでも発生しているのです。
誰が悪いのか
いちばんの被害者は、薬を必要とする患者さんです。
いつもの薬が手に入らない不安、治療がいつ中断するかもしれないという恐怖をお持ちのことでしょう。ほんとうにお気の毒としか言えません。
悪いのは、いったい、誰なのでしょうか。
国も製薬会社も悪いです。コロナウイルスも、悪い。
でも、国”だけ”、製薬会社”だけ”が悪いのではないでしょう。事態は複雑です。
新型コロナウイルスが悪いのは明らかですが、ウイルスが責任を負ってくれるはずもなく。
怒りの矛先を何処に向けるわけにもいかず、途方に暮れるばかりです。
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